400SS トラブルシュート
400SS続き その2
ミドルマッハの400SSの点火装置はKH400などのフラマグCDIとは異なり、バッテリー点火、いわゆるポイント点火とよばれる原動機黎明期からある、最も古典的な点火方式です。
ポイント点火は、調整こそ必要ですが、構成部品は単純ですので、修理は意外と簡単?です。
カワサキトリプルシリーズはこのポイント点火と、無接点CDIの二種類があります。
この頃はCDIシステムの黎明期とあって、下手すると毎年システムが変更されたりした事もありました。
初期型KA500SSは当時では最新鋭のCDIでしたが、車のようにコイルが一個で、ディストリビューターを介して各気筒に二次電流を分配していました。デスビがあるので、ローターとチップでかなりロスが出るし、リーク問題等もあり、H1Bでは古典的なポイント点火に戻ってしまいました。
H1Dになり、またまたCDIになったと思えば、H1EやFでそのCDIシステムが変更になり互換性もありません。
これだけの点火バリエーションがある機種も珍しいのですが、おそらくコストの問題と、輸出モデルにおいて、細かい調整が好まれない北米モデルにはメンテフリーのCDIシステムが採用され、コストも安く、信頼性の高いポイント点火は、主に国内向け車両に採用されたのかもしれません。
前置きが長くなりましたが、この400SSはポイント点火と言いました。
ポイント点火は煩わしいポイントギャップの調整があるので、世間ではあまり歓迎されていませんが、CDI点火のような点火ユニット、いわゆる「ブラックBOX」がありません。
CDIやフルトラはメンテナンスフリーですが、ブラックボックスがあるので、ユニットがパンクすればもうどうしようもありませんが、ポイント式はエンジンが不調になったとしても、取りあえず走る事が可能です。
今回は、ポイントもコンデンサーも交換されたそうですが、エンジンは不調のままです。
エンジン本体やキャブも点検するも、異常は見受けられませんでした・・・
単純な物ほど奥が深い・・・
この言葉が頭をよぎります。
五感を研ぎ澄まして再度各部を点検します。時には匂いを嗅いたり、手で感触を確かめたりと旧車の修理にはやはり「勘」も必要です。
すると、ポイントの開閉運動に違和感を感じました。なぜかポイントが閉じている時間より、開いている時間の方が長いという、今まで経験したことのない動きをしてます。
ここで、ドエルアングルテスターの登場です。ドエルアングルテスターなんて、もはや修理現場では死語となった計測機器です。
プロの方でも、整備士の講習会とかでしか使ったことの方も多いと思います。平成に入ってからは軽貨物でさえフルトラ化の波が押し寄せ、よほど古い整備工場でしか持っていない化石のような機器かもしれません・・・
ドエル角とはポイントは閉じている角度の事で、ポイント点火車にとっては重要な角度です。
ドエル角とポイントギャップは密接関係なので、詳しい話はここでは割愛し、誤解を恐れずに言えば、ポイントギャップが合っていれば、だいたいのドエルアングルは問題ないはずです。
今回、このSSも、ポイントギャップは入念に合わせたハズなのに、ドエルアングルが基準値になりません・・・
もしかしてポイントカムかも・・・
お客様の当初の問診で、「納車されて少しの間は調子が良かった」の言葉に惑わされたのかもしれません。
上記の画像でも解るように、外からパッと見では、内部まで見えませんし、外観上は異常も見受けられません。しかし、こんなドエル角になるにはポイントカムが「ハート型?」にならないと不可能です。
再度、ポイントヨークをバラし、ポイントカムを外してじっくり観察すると、ビックリ仰天!
画像では解りにくいのですが、ヒールとの摺動面が著しく虫喰い状に偏磨耗しており、あきらかに段差ができてしまっているではありませんか!
これでは、ポイントが正常な動きをする訳がなく、ポイントやコンデンサーを交換しても調子が出なかった理由が合点します。
「コイツやったんや・・・」
不調の原因さえ特定できればコッチのもんです。ただ、悲しいかなこいつも、もちろんメーカー在庫なんてある訳がありません・・・
こうなれば、中古部品を探すしかないのですが、中古を使うと、間違いなく同じ事がおこります。
今回はおそらくポイントカムの潤滑をしているフェルトのメンテナンス不良が原因ですが、
私もまさかベーグライトでできたポイントヒールと、鉄製のポイントカムが喧嘩して、鉄が負けるなんて想像もしていませんでした。
何年も前にポイントカムに「気休め」でWPC加工を施した事を思い出し、倉庫を家捜しする事しばし、カムを見て昔の記憶が蘇りました。何年か前、このWPC加工済みポイントカムを15000円でヤフオクに出品しましたが、高すぎたのか、まったくノーコール(涙)。WPC加工代も決して安くはなかったので、安売りするくらいなら・・・と自身で保管していました。
こんなパーツに高価な加工を施しても、市場では受け入れられない・・・と少しガッカリしていたのですが、やはりこんな部品こそWPC加工の恩恵を受けるんだと今回確信でき、嬉しく思えました。オーナーにもこの事を報告し、WPC加工済みポイントカムへの交換を快諾して頂きました。
キック一発でトリプルは目覚め、キレイな三重奏を奏でています。
旧車には高価絶大の3sqで製作したエンジンアースも追加し、試乗しました。ポイント車らしい、
中低速のトルクが太くて非常に乗り易く、結果として速いマッハになりました。
取りに来て頂いたオーナー様にも試乗して頂き、「怖いくらいの加速だった!」と言う最高の褒め言葉を頂きました。
今回、やはり「ヤフオク」という一見、便利で安そうな購入をされ、結果的に高くついたかもしれません・・・
ミドルマッハはどうしても旧舎会?系のお兄さんなどに人気で「音だけ」と揶揄される事が多いですが、キチンと整備すれば非力と言われるKH400であっても、そこは腐っても2サイクル400cc、遅いハズがありません。
今回、見た目などは、マッタク変わらない本当に地味な依頼内容でしたが、唯一違うのは以前とは比較にならない「信頼性」です。
私も、20年程前、遠方のミーティングなどに参加する時、テールカウルの中は工具で満載はもちろん、下手すると、当時の彼女(現在の嫁さん)に「車でついてきてもらう」という事が当たり前でした(笑)
しかし、よ~く考えて頂きたい、マッハやKHが新車で売られていた当時、テールカウルに工具を満載して、車で後ろについてきてもらわないとツーリングは不可能だったでしょうか?「旧車だから」の一言で、片付けてはいないでしょうか?
フルオリジナルだ、当時物だとかを自慢する輩を否定はしませんが、完全な「整備」を施し、現在のパーツを流用する事で、ロングツーリングはもちろん、通勤にだって使う事は不可能ではありません。
思い入れ、憧れてやっとの思いで購入した旧車だからこそ、最低限、動力性能くらいは「当時物」にしてあげて欲しい・・・
新年明けましておめでとうございます。第一号は他人事とは思えないマッハ。
新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い致します。
今年一発目は、年末ギリギリに納車した、珍しい国内物の400SSマッハの修理記事でスタート!
一号なので、少し長めの内容ですが、最後まで見て頂けますと幸いです。
右側三本出しバラチャンとセブンスターキャストが決まった珍しい400SSマッハ。
聞けば、「ヤフオクで購入したが、調子が悪く、自分で修理したらエンジンが掛からなくなった」という内容。
・・・・・・コレは修理屋にとって一番やりたくない仕事かもしれません。
人が途中まで修理しかけて投げ出した場合、自分で部品をバラした訳ではないので、倍以上の時間が掛かります。
ましてや今回、ご自身で配線をやり直したまではいいのですが、「純正のカプラーは切断し、ギボシで作り直したが、電装関係もおかしくなってしまった」といいます(汗)
純正のカプラーを捨て、配線も変えてしまうと、配線図が役に立たなくなります・・・
やはり、近所の修理屋さんでは断られたらしく、このブログを見て、藁にもすがる思いで当店に電話された様です。
もちろん当店でもやりたくない作業ですが、瞬時に18歳の時の記憶が頭をよぎります。
そうです、私も何を隠そう、マッタク同じ失敗を整備士学校に入学した直後にやらかしました。
自分で配線をやり直そうとして、途中で訳が解らなくなって、エンジンが掛からなくなってしまったんです・・・
もちろん、当時、配線図などあるわけなく、それにもましてこの当時のカワサキ車は、赤に白を繋ぐとか、現在の常識では考えられない配線方法です。見知らぬ土地で唯一の足だったKHの故障は、私にとってそれは死活問題でした。
当時はネットなどもちろんありませんから、電話帳のバイク屋さんにかたっぱしから電話しまくったんですが、
「そんなもん、人の失敗のケツ拭きなんかできるか!」と怒鳴られたバイク屋さえありました・・・
やっとの事、各務ヶ原にあるカワサキグリーンショップ(現RSオオワキ様)になんとか頼み込んで修理を受けて頂きました。
あの時、修理から上がってきたKHのエンジン音を聞いたときの感動と御恩は今でも忘れる事ができません・・・
だから、他人事とは思えなかったんです・・・
素人さんにしては番号を打つなどして、それなりに努力された後は見受けられますが、
配線すべて黒というのはいただけません・・・
その時はいいですが、純正の配線を無視して作り直すと、後から見た別の人間には、何が何んだかマッタク解りませんし、なにより配線図が使い物にならなくなります。もし、旅先などでトラぶってもまず見てくれる修理屋はありません。
だから、私達は純正に拘ります。お客様がもし、遠方でトラぶったとしても、配線図がみれる修理屋さんなら、旧車に強くないお店でも修理ができます。配線図なんてそれこそFAXでだって送れちゃいますから。
ご自身でコンデンサーとポイントも交換されたそうですが、調子は良くならかったらしく、配線では?と思って配線に手を出したそうなので、まず徹底的に現状の把握とトラブルシュートを行います。
良く見ると、コンデンサーの端子を繋ぐ位置が違っていたりはしていましたが、圧縮もあり、不調の原因はその辺りではなさそうです・・・
トラブルシュートは一つ一つ着実に殺して行き、ちゃんとした原因を突き止めないと絶対に「再修理」が待っています。
未だ「コレや!」という内容にはたどり着きません・・・
コイルも社外の強化品に変更されていますが、抵抗値を確認しないと、フルトラ用の3Ω程度のコイルを使用すると、いずれコイルがパンクします、それ以前に取り付け方法がビニールテープにタイラップという状態です・・・
コイルは熱を持ちますから、ブラケットは固定の役目だけではなく、熱をフレームに逃がすという役も兼ねており、これでは熱が逃げず、抵抗値があっていたとしてもパンクのリスクが伴います。
私も過去はそうでしたが、どうしても「強化品」という響きに弱く、基本的な事がおろそかになりがちです。
ただ、キチンとツボさえ押さえれば、強化コイルに換装すると、ジェットの番手が変わってしまうほど効果があるのも事実です。
今回はまず、全て純正に戻し、発電関係や配線関係、並びに充電関係のリフレッシュを行い、信頼性の大幅な向上を狙います。
メインハーネスはもちろん、ジェネレターコイルからの配線、バッテリーリードまで引き直し、外されていたヒューズBOXも復元します。
ヨークはブラストし、配線もすべて引きなおし、リビルドが完了したジェネレータ
見た目も気持ちいいですね!
メインハーネスだけ引きなおしても、バッテリーリードや、ジェネレーターからの配線も引きなさないと効果が半減です。
この一連の作業を行うと、ヘッドライトはもちろんメーターインジケーターの明かりまではっきり違いが解ります。
人間で言うと大動脈を交換したような物ですね。
せっかく発電所や送電線をリフレッシュしたのなら、変電所まで更新したいですよね・・・
以前は純正他車流用でしたが、今回は一体型高性能ICレギュレターを使います。
なるべく純正の雰囲気を崩したくないので、冷却性は多少犠牲にしますが、バッテリーケースに小加工して取り付けました。
レギュレターとレクチファイヤーが一体となるので、スッキリしますし何より高性能IC内臓ですので、MFバッテリーの使用さえ可能です。ただ、マッハ系の充電システムは元々脆弱な上、セルモーターなどの電力消費の大きな物もありませんし、電圧制御も緻密になり過充電にもなり難くバッテリーの持ちが比較的に良くなると思うので、通常タイプの液入りバッテリーで良いと思います。
グチャグチャになっていてた配線も、ギボシをハンダ着けするなどして信頼性を向上させ、
灯火系統も全て点灯させ修理完了、国内物のみ付いていた速度警告灯も配線を繋ぎ直し点灯させました。
当時は、毛嫌いされた速度警告灯も、今となっては国内物の証ですので、点灯させるように修理しました。
電装関係の修理は予定通りに完了しましたが、肝心のエンジンが不調のままです。
圧縮はコンプレッションゲージの数値が三気筒とも基準内でしたので、不調の原因は混合気か点火しかありません。
キャブが二次エアを吸っている訳でもなさそうですし、キャブ各部を点検するも異常はなさそうです。
やはり点火が原因の可能性が大ですね。
次回へと続く・・・
とってもマニアックなお話・・・ SSとKHのハブの違い。
スポークの振れ取りをUPしようとしてたのですが、ここでとってもオタク・・・いえいえマニアックなお話。
ミドルクラスのトリプルは結構長い間生産されました。その途中で、車名もSSからKHへと変わっていったのですが、その間に細かな変更が多数あったその一部がリアハブです。
これはSS350のリアハブです。
気の遠くなるようなバフ掛けを施され眩しい位に輝いています。
こちらは後期に当たるKHシリーズのリアハブです。
違いが解った貴方はすでにオタ・・・いえいえかなりマニアな貴方です(笑)
何が違うのか??
中心にハマるベアリングの径が違うんです。
上のSS系のベアリングの方が大きく、後のKH系の方が小さくなっています。
二つを並べてみるとこの通り。
なぜか後発のKH系の方がベアリング径が小さくなっています。
それと、ベアリングの間に挟まるカラーが大きく違います。
ベアリングの支持方法も大きく異なります。
何故こうゆうふうになったのか定かではありませんが、
下のSS系はベアリングインナーレースにカラーが刺さって頑丈に思えるし、ベアリングは大きい方が荷重に対しては有利なハズです。
では何故ベアリング径が小さくなったのか??
カラーの重さは明らかにKH系の方が軽くできています。この部分はバネ下重量になるので、軽さは重要ですが、もしかしてハブのベアリング受けの肉厚不足などなど・・・
後、考えられるのは生産性の向上、つまりコストダウンかもしれません・・・あくまで私見ですが、後者の可能性の方が高そうですね。
と、まぁどうでもええ事なのですが(笑)
当社でハブ再生される場合、ベアリングとカラーが無くてもカラーの制作は可能ですが、若干料金が変わりますので業務連絡も兼ねてUPさせて頂きました。
ちなみにSSとKHのバブベアリングは違ってもハブASSYは共用可能ですのでご安心下さいませ。
P、S 「SS用とKH用がどちらの方が優れているのか?」
とかのマニアックな質問についてはお答え致しかねます(笑)
マッハ KH トリプルシリーズの都市伝説?
マッハやKHの話で何故か「真ん中が焼ける」とよく言われます・・・
がっ!しかしである。
私の経験上、何故か3番シリンダー(勝手に右から順に呼んでます本当は1番)ばかり焼き付いています。
この帰国子女のKH400もキッチリ3番シリンダーが焼きついています・・・
マッハ系のシリンダーレイアウトだけを見ると、やはり真ん中のシリンダーの冷却効率が悪く見えますが、適正なピストンクリアランスとキチンとしたオイル管理をしていれば、そうそう焼きつくという事はありません。
では何故3番ばかり焼けるのか??
それは、単純にオイルポンプから「遠い」事に尽きます・・・
どうしてもデリバリパイプも長くなり、油圧の低下やポンプワッシャーからのエア噛みなども疑われます。
また、純正オイルポンプの信頼性が低いのもありますが、
タコメーターと共にオイルポンプを駆動している、チープなプラスチック製のギアとシャフトに不具合が出ている車両も多いですね・・・
オイルさえ切らさなければ、そうそう焼きつく物ではないハズなんですが・・・
そうやって永い間にマッハの「都市伝説」として拡散していったのでしょうね・・・
みなさん、くれぐれも「真ん中」ではなく、「3番」に気を使ってあげて下さいね!
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